そうだ。あの音だ。ピタゴラス派《は》の天球運動《てんきゅううんどう》の諧音《かいおん》です」
「あら、なんだかまわりがぼんやり青白くなってきましたわ」
「夜が明けるのでしょうか。いやはてな。おお立派《りっぱ》だ。あなたの顔がはっきり見える」
「あなたもよ」
「ええ、とうとう、僕《ぼく》たち二人きりですね」
「まあ、青白い火が燃《も》えてますわ。まあ地面《じめん》と海も。けど熱《あつ》くないわ」
「ここは空ですよ。これは星の中の霧《きり》の火ですよ。僕たちのねがいがかなったんです。ああ、さんたまりや」
「ああ」
「地球《ちきゅう》は遠いですね」
「ええ」
「地球はどっちの方でしょう。あたりいちめんの星、どこがどこかもうわからない。あの僕のブッキリコはどうしたろう。あいつは本当はかあいそうですね」
「ええ、まあ、火が少し白くなったわ、せわしく燃えますわ」
「きっと今秋ですね。そしてあの倉庫《そうこ》の屋根《やね》も親切でしたね」
「それは親切とも」いきなり太《ふと》い声がしました。気がついてみると、ああ、二人ともいっしょに夢《ゆめ》を見ていたのでした。いつか霧《きり》がはれてそら一めんの星
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