《ぼく》たちぜんたいどこに来たんでしょうね」
「あら、空があんまり速《はや》くめぐりますわ」
「ええ、ああ、あの大きな橙《だいだい》の星は地平線《ちへいせん》から今上ります。おや、地平線じゃない。水平線かしら。そうです。ここは夜の海の渚《なぎさ》ですよ」
「まあ奇麗《きれい》だわね、あの波《なみ》の青びかり」
「ええ、あれは磯波《いそなみ》の波がしらです、立派《りっぱ》ですねえ、行ってみましょう」
「まあ、ほんとうにお月さまのあかりのような水よ」
「ね、水の底に赤いひとでがいますよ。銀水《ぎんいろ》[#「銀水《ぎんいろ》」はママ]のなまこがいますよ。ゆっくりゆっくり、這《は》ってますねえ、それからあのユラユラ青びかりの棘《とげ》を動かしているのは、雲丹《うに》ですね。波が寄《よ》せて来ます。少し遠のきましょう」
「ええ」
「もう、何べん空がめぐったでしょう。たいへん寒《さむ》くなりました。海がなんだか凍《こお》ったようですね。波はもう、うたなくなりました」
「波《なみ》がやんだせいでしょうかしら。何か音がしていますわ」
「どんな音」
「そら、夢《ゆめ》の水車のきしりのような音」
「ああ
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