あした石膏《せきかう》を用意して来よう」とも云ひました。けれどもそれよりいちばんいゝことはやっぱりその足あとを切り取って、そのまゝ学校へ持って行って標本にすることでした。どうせ又水が出れば火山灰の層が剥げて、新らしい足あとの出るのはたしかでしたし、今のは構はないで置いてもすぐ壊れることが明らかでしたから。
 次の朝早く私は実習を掲示する黒板に斯《か》う書いて置きました。
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     八月八日
農場実習 午前八時半より正午まで
  除草、追肥   第一、七組
  蕪菁《かぶら》播種《はしゅ》    第三、四組
  甘藍《かんらん》中耕    第五、六組
  養蚕実習    第二組
 (午后イギリス海岸に於《おい》て第三紀|偶蹄《ぐうてい》類の足跡《そくせき》標本を採収すべきにより希望者は参加すべし。)
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 そこで正直を申しますと、この小さな「イギリス海岸」の原稿は八月六日あの足あとを見つける前の日の晩宿直室で半分書いたのです。私はあの救助係の大きな石を鉄梃《かなてこ》で動かすあたりから、あとは勝手に私の空想を書いて行かうと思ってゐたのです。と
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