な》の小さいのだらうと思ひました。第三紀の泥岩で、どうせ昔の沼の岸ですから、何か哺乳《ほにゅう》類の足痕のあることもいかにもありさうなことだけれども、教室でだって手獣《しゅじゅう》の足痕の図まで黒板に書いたのだし、どうせそれが頭にあるから壺穴までそんな工合《ぐあひ》に見えたんだと思ひながら、あんまり気乗りもせずにそっちへ行って見ました。ところが私はぎくりとしてつっ立ってしまひました。みんなも顔色を変へて叫んだのです。
白い火山灰層のひとところが、平らに水で剥《は》がされて、浅い幅の広い谷のやうになってゐましたが、その底に二つづつ蹄《ひづめ》の痕のある大さ五寸ばかりの足あとが、幾つか続いたりぐるっとまはったり、大きいのや小さいのや、実にめちゃくちゃについてゐるではありませんか。その中には薄く酸化鉄が沈澱《ちんでん》してあたりの岩から実にはっきりしてゐました。たしかに足痕が泥につくや否や、火山灰がやって来てそれをそのまゝ保存したのです。私ははじめは粘土でその型をとらうと思ひました。一人がその青い粘土も持って来たのでしたが、蹄の痕があんまり深過ぎるので、どうもうまく行きませんでした。私は「
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