むちゅう》になってはねあがりまっ青《さお》な寂静印《じゃくじょういん》[※16]の湖の岸硅砂《きしけいしゃ》[※17]の上をかけまわりました。そしていきなり私にぶっつかりびっくりして飛《と》びのきながら一人が空を指《さ》して叫《さけ》びました。
「ごらん、そら、インドラの網を。」
 私は空を見ました。いまはすっかり青ぞらに変ったその天頂《てんちょう》から四方の青白い天末《てんまつ》までいちめんはられたインドラのスペクトル製《せい》の網、その繊維《せんい》は蜘蛛《くも》のより細く、その組織《そしき》は菌糸《きんし》より緻密《ちみつ》に、透明《とうめい》清澄《せいちょう》で黄金でまた青く幾億《いくおく》互《たがい》に交錯《こうさく》し光って顫《ふる》えて燃えました。
「ごらん、そら、風の太鼓《たいこ》。」も一人がぶっつかってあわてて遁《に》げながら斯う云いました。ほんとうに空のところどころマイナスの太陽ともいうように暗《くら》く藍《あい》や黄金や緑や灰いろに光り空から陥《お》ちこんだようになり誰《だれ》も敲《たた》かないのにちからいっぱい鳴っている、百千のその天の太鼓は鳴っていながらそれで少
前へ 次へ
全13ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング