オも鳴っていなかったのです。私はそれをあんまり永《なが》く見て眼も眩《くら》くなりよろよろしました。
「ごらん、蒼孔雀《あおくじゃく》を。」さっきの右はじの子供が私と行きすぎるときしずかに斯う云いました。まことに空のインドラの網のむこう、数しらず鳴りわたる天鼓《てんこ》のかなたに空一ぱいの不思議《ふしぎ》な大きな蒼い孔雀が宝石製《ほうせきせい》の尾《お》ばねをひろげかすかにクウクウ鳴きました。その孔雀はたしかに空には居《お》りました。けれども少しも見えなかったのです。たしかに鳴いておりました。けれども少しも聞えなかったのです。
 そして私は本統《ほんとう》にもうその三人の天の子供らを見ませんでした。
 却《かえ》って私は草穂《くさぼ》と風の中に白く倒れている私のかたちをぼんやり思い出しました。
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●入力者注
※1 インドラ=帝釈天。インドのヴェーダ神話の神が仏教に取り入れられたもので、仏法を護る神。その宮殿の屋根には美しい網がかかる。
※2 高陵=磁器の原材料の産出で著名な中国の地名。
※3 複六方錐=六辺の三角錐が上下に合わさったもの。
※4 鋼玉=ダイアモンドに次い
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