せんでした。
(やっぱりツェラの高原だ。ほんの一時のまぎれ込みなどは結局《けっきょく》あてにならないのだ。)斯う私は自分で自分に誨《おし》えるようにしました。けれどもヌうもおかしいことはあの天盤のつめたいまるめろに似《に》たかおりがまだその辺《へん》に漂《ただよ》っているのでした。そして私はまたちらっとさっきのあやしい天の世界の空間を夢《ゆめ》のように感《かん》じたのです。
(こいつはやっぱりおかしいぞ。天の空間は私の感覚《かんかく》のすぐ隣《とな》りに居《い》るらしい。みちをあるいて黄金いろの雲母《うんも》のかけらがだんだんたくさん出て来ればだんだん花崗岩《かこうがん》に近づいたなと思うのだ。ほんのまぐれあたりでもあんまり度々《たびたび》になるととうとうそれがほんとになる。きっと私はもう一度この高原で天の世界を感ずることができる。)私はひとりで斯う思いながらそのまま立っておりました。
そして空から瞳を高原に転《てん》じました。全く砂はもうまっ白に見えていました。湖は緑青《ろくしょう》よりももっと古びその青さは私の心臓《しんぞう》まで冷たくしました。
ふと私は私の前に三人の天の子供《こ
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