ろも》はけむりのようにうすくその瓔珞《ようらく》[※12]は昧爽《まいそう》[※13]の天盤《てんばん》からかすかな光を受《う》けました。
(ははあ、ここは空気の稀薄《きはく》が殆《ほと》んど真空《しんくう》に均《ひと》しいのだ。だからあの繊細《せんさい》な衣のひだをちらっと乱《みだ》す風もない。)私はまた思いました。
天人は紺《こん》いろの瞳《ひとみ》を大きく張《は》ってまたたき一つしませんでした。その唇《くちびる》は微《かす》かに哂《わら》いまっすぐにまっすぐに翔けていました。けれども少しも動かず移らずまた変りませんでした。
(ここではあらゆる望《のぞ》みがみんな浄《きよ》められている。願《ねが》いの数はみな寂《しず》められている。重力《じゅうりょく》は互《たがい》に打《う》ち消《け》され冷たいまるめろ[※14]の匂《にお》いが浮動《ふどう》するばかりだ。だからあの天衣《てんい》の紐《ひも》も波《なみ》立たずまた鉛直《えんちょく》に垂《た》れないのだ。)
けれどもそのとき空は天河石《てんがせき》からあやしい葡萄瑪瑙《ぶどうめのう》の板に変りその天人の翔ける姿《すがた》をもう私は見ま
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