(水ではないぞ、また曹達《ソーダ》や何かの結晶《けっしょう》だぞ。いまのうちひどく悦《よろこ》んで欺《だま》されたとき力を落《おと》しちゃいかないぞ。)私は自分で自分に言いました。
それでもやっぱり私は急《いそ》ぎました。
湖はだんだん近く光ってきました。間もなく私はまっ白な石英《せきえい》の砂《すな》とその向うに音なく湛《たた》えるほんとうの水とを見ました。
砂がきしきし鳴りました。私はそれを一つまみとって空の微光《びこう》にしらべました。すきとおる複六方錐《ふくろくほうすい》[※3]の粒《つぶ》だったのです。
(石英安山岩《せきえいあんざんがん》か流紋岩《りゅうもんがん》から来た。)
私はつぶやくようにまた考えるようにしながら水際《みずぎわ》に立ちました。
(こいつは過冷却《かれいきゃく》の水だ。氷相当官《こおりそうとうかん》なのだ。)私はも一度《いちど》こころの中でつぶやきました。
全《まった》く私のてのひらは水の中で青じろく燐光《りんこう》を出していました。
あたりが俄《にわか》にきいんとなり、
(風だよ、草の穂《ほ》だよ。ごうごうごうごう。)こんな語《ことば》が私の頭の中
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