高く笑いました。けれども、その笑い声が、潰《つぶ》れたように丘へひびいて、それから遠くへ消えたとき、タネリは、しょんぼりしてしまいました。そしてさびしそうに、また藤の蔓を一つまみとって、にちゃにちゃと噛みはじめました。
 その時、向うの丘の上を、一|疋《ぴき》の大きな白い鳥が、日を遮《さえ》ぎって飛びたちました。はねのうらは桃いろにぎらぎらひかり、まるで鳥の王さまとでもいうふう、タネリの胸は、まるで、酒でいっぱいのようになりました。タネリは、いま噛んだばかりの藤蔓を、勢よく草に吐いて高く叫びました。
「おまえは鴇《とき》という鳥かい。」
 鳥は、あたりまえさというように、ゆっくり丘の向うへ飛んで、まもなく見えなくなりました。タネリは、まっしぐらに丘をかけのぼって、見えなくなった鳥を追いかけました。丘の頂上に来て見ますと、鳥は、下の小さな谷間の、枯れた蘆《あし》のなかへ、いま飛び込《こ》むところです。タネリは、北風カスケより速く、丘を馳《か》け下りて、その黄いろな蘆むらのまわりを、ぐるぐるまわりながら叫びました。
「おおい、鴇、
 おいらはひとりなんだから、
 おまえはおいらと遊んでおく
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