れ。
 おいらはひとりなんだから。」
 鳥は、ついておいでというように、蘆のなかから飛びだして、南の青いそらの板に、射られた矢のようにかけあがりました。タネリは、青い影法師《かげぼうし》といっしょに、ふらふらそれを追いました。かたくりの花は、その足もとで、たびたびゆらゆら燃えましたし、空はぐらぐらゆれました。鳥は俄かに羽をすぼめて、石ころみたいに、枯草の中に落ちては、またまっすぐに飛びあがります。タネリも、つまずいて倒れてはまた起きあがって追いかけました。鳥ははるかの西に外《そ》れて、青じろく光りながら飛んで行きます。タネリは、一つの丘をかけあがって、ころぶようにまたかけ下りました。そこは、ゆるやかな野原になっていて、向うは、ひどく暗い巨《おお》きな木立でした。鳥は、まっすぐにその森の中に落ち込みました。タネリは、胸を押《おさ》えて、立ちどまってしまいました。向うの木立が、あんまり暗くて、それに何の木かわからないのです。ひばよりも暗く、榧《かや》よりももっと陰気で、なかには、どんなものがかくれているか知れませんでした。それに、何かきたいな怒鳴《どな》りや叫びが、中から聞えて来るのです。
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