の湯気を吐き、そのあちこちには青じろい水ばしょう、牛《ベゴ》の舌[#「牛の舌」に傍点]の花が、ぼんやりならんで咲いていました。タネリは思わず、また藤蔓を吐いてしまって、勢《いきおい》よく湿地のへりを低い方へつたわりながら、その牛《ベゴ》の舌の花に、一つずつ舌を出して挨拶《あいさつ》してあるきました。そらはいよいよ青くひかって、そこらはしぃんと鳴るばかり、タネリはとうとう、たまらなくなって、「おーい、誰《たれ》か居たかあ。」と叫びました。すると花の列のうしろから、一ぴきの茶いろの蟇《ひきがえる》が、のそのそ這《は》ってでてきました。タネリは、ぎくっとして立ちどまってしまいました。それは蟇の、這いながらかんがえていることが、まるで遠くで風でもつぶやくように、タネリの耳にきこえてきたのです。
 (どうだい、おれの頭のうえは。
  いつから、こんな、
  ぺらぺら赤い火になったろう。)
「火なんか燃えてない。」タネリは、こわごわ云いました。蟇は、やっぱりのそのそ這いながら、
 (そこらはみんな、桃《もも》いろをした木耳《きくらげ》だ。
  ぜんたい、いつから、
  こんなにぺらぺらしだしたのだ
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