る。」
そのなめらかな青ぞらには、まだ何か、ちらちらちらちら、網《あみ》になったり紋《もん》になったり、ゆれてるものがありました。タネリは、柔《やわ》らかに噛んだ藤蔓を、いきなりぷっと吐《は》いてしまって、こんどは力いっぱい叫《さけ》びました。
「ほう、太陽《てんとう》の、きものをそらで編んでるぞ
いや、太陽《てんとう》の、きものを編んでいるだけでない。
そんなら西のゴスケ風だか?
いいや、西風ゴスケでない
そんならホースケ、蜂《すがる》だか?
うんにゃ、ホースケ、蜂《すがる》でない
そんなら、トースケ、ひばりだか?
うんにゃ、トースケ、ひばりでない。」
タネリは、わからなくなってしまいました。そこで仕方なく、首をまげたまま、また藤蔓を一つまみとって、にちゃにちゃ噛みはじめながら、かれ草をあるいて行きました。向うにはさっきの、四本の柏が立っていてつめたい風が吹《ふ》きますと、去年の赤い枯れた葉は、一度にざらざら鳴りました。タネリはおもわず、やっと柔らかになりかけた藤蔓を、そこらへふっと吐いてしまって、その西風のゴスケといっしょに、大きな声で云いました。
「おい、柏の木
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