タネリの小屋が、兎《うさぎ》ぐらいに見えるころ、タネリはやっと走るのをやめて、ふざけたように、口を大きくあきながら、頭をがたがたふりました。それから思い出したように、あの藤蔓を、また五六ぺんにちゃにちゃ噛みました。その足もとに、去年の枯れた萱《かや》の穂《ほ》が、三本|倒《たお》れて、白くひかって居りました。タネリは、もがもが[#「もがもが」に傍点]つぶやきました。
「こいつらが
ざわざわざわざわ云ったのは、
ちょうど昨日のことだった。
何《なに》して昨日のことだった?
雪を勘定《かんじょう》しなければ、
ちょうど昨日のことだった。」
ほんとうに、その雪は、まだあちこちのわずかな窪《くぼ》みや、向うの丘の四本《しほん》の柏《かしわ》の木の下で、まだらになって残っています。タネリは、大きく息をつきながら、まばゆい頭のうえを見ました。そこには、小さなすきとおる渦巻《うずま》きのようなものが、ついついと、のぼったりおりたりしているのでした。タネリは、また口のなかで、きゅうくつそうに云いました。
「雪のかわりに、これから雨が降るもんだから、
そうら、あんなに、雨の卵ができてい
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