方ない。よかろう。何もかもみな慈善《じぜん》のためじゃ。承知した。証文を書きなさい。」
 さあ大変だあたし字なんか書けないわとひなげしどもがみんな一諸《いっしょ》に思ったとき悪魔のお医者はもう持って来た鞄《かばん》から印刷にした証書を沢山出しました。そして笑って云いました。
「ではそのわしがこの紙をひとつぱらぱらめくるからみんないっしょにこう云いなさい。
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亜片はみんな差しあげ候《そうろう》と、」
[#ここで字下げ終わり]
 まあよかったとひなげしどもはみんないちどにざわつきました。お医者は立って云いました。
「では」ぱらぱらぱらぱら、
「亜片はみんな差しあげ候。」
「よろしい。早速薬をあげる。一服、二服、三服とな。まずわたしがここで第一服の呪文《じゅもん》をうたう。するとここらの空気にな。きらきら赤い波がたつ。それをみんなで呑《の》むんだな。」
 悪魔のお医者はとてもふしぎないい声でおかしな歌をやりました。
「まひるの草木と石土を 照らさんことを怠《おこた》りし 赤きひかりは集《つど》い来てなすすべしらに漂《ただよ》えよ。」
 するとほんとうにそこらのもう浅黄《
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