ねったまましいんとして空をみあげています。雲のみねはだんだん崩《くず》れてしずかな金いろにかがやき、そおっと、北の方へ流れ出しました。
ひなげしはやっぱりしいんとしています。お医者もじっとやっぱりおひげをにぎったきり、花壇の遠くの方などはもうぼんやりと藍《あい》いろです。そのとき風が来ましたのでひなげしどもはちょっとざわっとなりました。
お医者もちらっと眼《め》をうごかしたようでしたがまもなくやっぱり前のようしいんと静まり返っています。
その時一番小さいひなげしが、思い切ったように云いました。
「お医者さん。わたくしおあしなんか一文もないのよ。けども少したてばあたしの頭に亜片《あへん》ができるのよ。それをみんなあげることにしてはいけなくって。」
「ほう。亜片かね。あんまり間には合わないけれどもとにかくその薬はわしの方では要《い》るんでね。よし。いかにも承知した。証文を書きなさい。」
するとみんながまるで一ぺんに叫びました。
「私もどうかそうお願いいたします。どうか私もそうお願い致《いた》します。」
お医者はまるで困ったというように額に皺《しわ》をよせて考えていましたが、
「仕
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