た。悪魔の弟子はさっそく大きな雀《すずめ》の形になってぼろんと飛んで行きました。
東の雲のみねはだんだん高く、だんだん白くなって、いまは空の頂上まで届くほどです。
悪魔は急いでひなげしの所へやって参りました。
「ええと、この辺じゃと云われたが、どうも門へ標札《ひょうさつ》も出してないというようなあんばいだ。一寸たずねますが、ひなげしさんたちのおすまいはどの辺ですかな。」
賢《かしこ》いテクラがドキドキしながら云いました。
「あの、ひなげしは手前どもでございます。どなたでいらっしゃいますか。」
「そう、わしは先刻|伯爵《はくしゃく》からご言伝《ことづて》になった医者ですがね。」
「それは失礼いたしました。椅子《いす》もございませんがまあどうぞこちらへ。そして私共は立派になれましょうか。」
「なりますね。まあ三服でちょっとさっきのむすめぐらいというところ。しかし薬は高いから。」
ひなげしはみんな顔色を変えてためいきをつきました。テクラがたずねました。
「一体どれ位でございましょう。」
「左様。お一人が五ビルです。」
ひなげしはしいんとしてしまいました。お医者の悪魔もあごのひげをひ
前へ
次へ
全11ページ中5ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング