あ、あいにくとそういうところ存じませんでございます。一体それがこの近所にでもございましょうか。」
「それはもちろん。現に私のこのむすめなど、前は尖《とが》ったおかしなもんでずいぶん心配しましたがかれこれ三度助手のお方に来ていただいてすっかり術をほどこしましてとにかく今はあなた方ともご交際なぞ願えばねがえるようなわけ、あす紐育《ニューヨーク》に連れてでますのでちょっとお礼に出ましたので。では。」
「あ、一寸。一寸お待ち下さいませ。その美容術の先生はどこへでもご出張なさいますかしら。」
「しましょうな」
「それでは誠《まこと》になんですがお序《つい》での節、こちらへもお廻《まわ》りねがえませんでしょうか。」
「そう。しかし私はその先生の書生というでもありません。けれども、しかしとにかくそう云いましょう。おい。行こう。さよなら。」
 悪魔は娘の手をひいて、向うのどてのかげまで行くと片眼《かため》をつぶって云いました。
「お前はこれで帰ってよし。そしてキャベジと鮒《ふな》とをな灰で煮込《にこ》んでおいてくれ。ではおれは今度は医者だから。」といいながらすっかり小さな白い鬚《ひげ》の医者にばけまし
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