黄のだんだらの蜂《はち》めまでみなまっさきにあっちへ行くわ。」
 向うの葵《あおい》の花壇《かだん》から悪魔《あくま》が小さな蛙《かえる》にばけて、ベートーベンの着たような青いフロックコートを羽織りそれに新月よりもけだかいばら娘《むすめ》に仕立てた自分の弟子《でし》の手を引いて、大変あわてた風をしてやって来たのです。
「や、道をまちがえたかな。それとも地図が違《ちが》ってるか。失敗。失敗。はて、一寸《ちょっと》聞いて見よう。もしもし、美容術のうちはどっちでしたかね。」
 ひなげしはあんまり立派なばらの娘を見、又《また》美容術と聞いたので、みんなドキッとしましたが、誰《たれ》もはずかしがって返事をしませんでした。悪魔の蛙がばらの娘に云いました。
「ははあ、この辺のひなげしどもはみんなつんぼか何かだな。それに全然無学だな。」
 娘にばけた悪魔の弟子はお口をちょっと三角にしていかにもすなおにうなずきました。
 女王《スター》のテクラが、もう非常な勇気で云いました。
「何かご用でいらっしゃいますか。」
「あ、これは。ええ、一寸《ちょっと》おたずねいたしますが、美容院はどちらでしょうか。」
「さ
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