た山に入ってしまいました。
 風が一そうはげしくなってひのきもまるで青黒馬《あおうま》のしっぽのよう、ひなげしどもはみな熱病にかかったよう、てんでに何かうわごとを、南の風に云ったのですが風はてんから相手にせずどしどし向うへかけぬけます。
 ひなげしどもはそこですこうししずまりました。東には大きな立派な雲の峰《みね》が少し青ざめて四つならんで立ちました。
 いちばん小さいひなげしが、ひとりでこそこそ云いました。
「ああつまらないつまらない、もう一生|合唱手《コーラス》だわ。いちど女王《スター》にしてくれたら、あしたは死んでもいいんだけど。」
 となりの黒斑《くろぶち》のはいった花がすぐ引きとって云いました。
「それはもちろんあたしもそうよ。だってスターにならなくたってどうせあしたは死ぬんだわ。」
「あら、いくらスターでなくってもあなたの位立派ならもうそれだけで沢山《たくさん》だわ。」
「うそうそ。とてもつまんない。そりゃあたしいくらかあなたよりあたしの方がいいわねえ。わたしもやっぱりそう思ってよ。けどテクラさんどうでしょう。まるで及《およ》びもつかないわ。青いチョッキの虻《あぶ》さんでも
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