あさぎ》いろになった空気のなかに見えるか見えないような赤い光がかすかな波になってゆれました。ひなげしどもはじぶんこそいちばん美しくなろうと一生けん命その風を吸いました。
 悪魔のお医者はきっと立ってこれを見渡《みわた》していましたがその光が消えてしまうとまた云いました。
「では第二服 まひるの草木と石土を 照らさんことを怠りし 黄なるひかりは集い来てなすすべしらに漂えよ」
 空気へうすい蜜《みつ》のような色がちらちら波になりました。ひなげしはまた一生けん命です。
「では第三服」とお医者が云おうとしたときでした。
「おおい、お医者や、あんまり変な声を出してくれるなよ。ここは、セントジョバンニ様のお庭だからな。」ひのきが高く叫びました。
 その時風がザァッとやって来ました。ひのきが高く叫びました。
「こうらにせ医者。まてっ。」
 すると医者はたいへんあわてて、まるでのろしのように急に立ちあがって、滅法界《めっぽうかい》もなく大きく黒くなって、途方《とほう》もない方へ飛んで行ってしまいました。その足さきはまるで釘抜《くぎぬ》きのように尖《とが》り黒い診察鞄《しんさつかばん》もけむりのように消
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