たから馬はたびたびつまづくやうにしました。楢夫もあたりを見てあるいてゐましたのでやはりたびたびつまづきさうにしました。
「下見で歩げ。」と一郎がたびたび云ったのでした。
 みちはいつか谷川からはなれて大きな象のやうな形の丘の中腹をまはりはじめました。栗《くり》の木が何本か立って枯れた乾いた葉をいっぱい着け、鳥がちょんちょんと鳴いてうしろの方へ飛んで行きました。そして日の光がなんだか少しうすくなり雪がいままでより暗くそして却って強く光って来ました。
 そのとき向ふから一列の馬が鈴をチリンチリンと鳴らしてやって参りました。
 みちが一《ひと》むらの赤い実をつけたまゆみの木のそばまで来たとき両方の人たちは行きあひました。兄弟の先に立った馬は一寸《ちょっと》みちをよけて雪の中に立ちました。兄弟も膝《ひざ》まで雪にはひってみちをよけました。
「早ぃな。」
「早がったな。」挨拶《あいさつ》をしながら向ふの人たちや馬は通り過ぎて行きました。
 ところが一ばんおしまひの人は挨拶をしたなり立ちどまってしまひました。馬はひとりで少し歩いて行ってからうしろから「どう。」と云はれたのでとまりました。兄弟は雪の
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