ぃ、行ぐまちゃ。わらし達ぁ先に立ったら好《い》がべがな。」と二人のお父さんにたづねました。
「なぁに随《つい》で行ぐごたんす。どうがお願ぁ申さんすぢゃ。」お父さんは笑っておじぎをしました。
「さ、そいでぁ、まんつ、」その人は牽《ひき》づなを持ってあるき出し鈴はツァリンツァリンと鳴り馬は首を垂れてゆっくりあるきました。
 一郎は楢夫をさきに立ててそのあとに跡《つ》いて行きました。みちがよくかたまってじっさい気持ちがよく、空はまっ青にはれて、却《かへ》って少しこはいくらゐでした。
「房下がってるぢゃぃ。」にはかに楢夫が叫びました。一郎はうしろからよく聞えなかったので「何や。」とたづねました。
「あの木さ房下がってるぢゃぃ。」楢夫が又云ひました。見るとすぐ崖《がけ》の下から一本の木が立ってゐてその枝には茶いろの実がいっぱいに房になって下って居《を》りました。一郎はしばらくそれを見ました。それから少し馬におくれたので急いで追ひつきました。馬を引いた人はこの時ちょっとうしろをふりかへってこっちをすかすやうにして見ましたがまた黙ってあるきだしました。
 みちの雪はかたまってはゐましたがでこぼこでし
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