中からみちにあがり二人とならんで立ってゐた馬もみちにあがりました。ところが馬を引いた人たちはいろいろ話をはじめました。
 兄弟はしばらくは、立って自分たちの方の馬の歩き出すのを待ってゐましたがあまり待ち遠しかったのでたうとう少しづつあるき出しました。あとはもう峠を一つ越えればすぐ家でしたし、一里もないのでしたからそれに天気も少しは曇ったってみちはまっすぐにつゞいてゐるのでしたから何でもないと一郎も思ひました。
 馬をひいた人は兄弟が先に歩いて行くのを一寸《ちょっと》よこめで見てゐましたがすぐあとから追ひつくつもりらしくだまって話をつゞけました。
 楢夫はもう早くうちへ帰りたいらしくどんどん歩き出し一郎もたびたびうしろをふりかへって見ましたが馬が雪の中で茶いろの首を垂れ二人の人が話し合って白い大きな手甲がちらっと見えたりするだけでしたからやっぱり歩いて行きました。
 みちはだんだんのぼりになりつひにはすっかり坂になりましたので楢夫はたびたび膝《ひざ》に手をつっぱって「うんうん」とふざけるやうにしながらのぼりました。一郎もそのうしろからはあはあ息をついて
「よう、坂道、よう、山道」なんて云
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