ひながら進んで行きました。
けれどもたうとう楢夫は、つかれてくるりとこっちを向いて立ちどまりましたので、一郎はいきなりひどくぶっつかりました。
「疲《こは》いが。」一郎もはあはあしながら云ひました。来た方を見ると路《みち》は一すぢずうっと細くついて人も馬ももう丘のかげになって見えませんでした。いちめんまっ白な雪、(それは大へんくらく沈んで見えました。空がすっかり白い雲でふさがり太陽も大きな銀の盤のやうにくもって光ってゐたのです)がなだらかに起伏しそのところどころに茶いろの栗《くり》や柏《かしは》の木が三本四本づつちらばってゐるだけじつにしぃんとして何ともいへないさびしいのでした。けれども楢夫はその丘の自分たちの頭の上からまっすぐに向ふへかけおりて行く一|疋《ぴき》の鷹《たか》を見たとき高く叫びました。
「しっ、鳥だ。しゅう。」
一郎はだまってゐました。けれどもしばらく考えてから云ひました。
「早ぐ峠越えるべ。雪降って来るぢょ。」
ところが丁度そのときです。まっしろに光ってゐる白いそらに暗くゆるやかにつらなってゐた峠の頂の方が少しぼんやり見えて来ました。そしてまもなく小さな小さな乾
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