で一郎を見ながら又言ひました。
「それがらみんなしておりゃのごと送って行ぐて云ったか。」
「みんなして汝《うな》のごと送てぐど。そいづぁなぁ、うな立派になってどごさが行ぐ時ぁみんなして送ってぐづごとさ。みんないゝごとばがりだ。泣ぐな。な、泣ぐな。春になったら盛岡祭見さ連《つれ》でぐはんて泣ぐな。な。」
一郎はまっ青になってだまって日光に照らされたたき火を見てゐましたが、この時やっと云ひました。
「なあに風の又三郎など、怖《お》っかなぐなぃ。いっつも何だりかだりって人だますぢゃぃ。」
楢夫もやうやく泣きじゃくるだけになりました。けむりの中で泣いて眼をこすったもんですから眼のまはりが黒くなってちょっと小さな狸《たぬき》のやうに見えました。
お父さんはなんだか少し泣くやうに笑って
「さあもう一《ひと》がへり面《つら》洗なぃやなぃ。」と云ひながら立ちあがりました。
二、峠
ひるすぎになって谷川の音もだいぶかはりました。何だかあたたかくそしてどこかおだやかに聞えるのでした。
お父さんは小屋の入口で馬を引いて炭をおろしに来た人と話してゐました。ずゐぶん永いこと話してゐまし
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