《おどろ》いたことはあんまり立派な人たちのそこにもこゝにも一杯なことでした。ある人人は鳥のやうに空中を翔《か》けてゐましたがその銀いろの飾りのひもはまっすぐにうしろに引いて波一つたたないのでした。すべて夏の明方のやうないゝ匂《にほひ》で一杯でした。ところが一郎は俄《には》かに自分たちも又そのまっ青な平らな平らな湖水の上に立ってゐることに気がつきました。けれどもそれは湖水だったのでせうか。いゝえ、水ぢゃなかったのです。硬かったのです。冷たかったのです、なめらかだったのです。それは実に青い宝石の板でした。板ぢゃない、やっぱり地面でした。あんまりそれがなめらかで光ってゐたので湖水のやうに見えたのです。
一郎はさっきの人を見ました。その人はさっきとは又まるで見ちがへるやうでした。立派な瓔珞《やうらく》をかけ黄金《きん》の円光を冠《かぶ》りかすかに笑ってみんなのうしろに立ってゐました。そこに見えるどの人よりも立派でした。金と紅宝石《ルビー》を組んだやうな美しい花皿を捧《ささ》げて天人たちが一郎たちの頭の上をすぎ大きな碧《あを》や黄金のはなびらを落して行きました。
そのはなびらはしづかにしづか
前へ
次へ
全38ページ中33ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング