を恐れ横を見るひまもなくたゞふかくふかくため息をついたり声を立てないで泣いたり、ぞろぞろ追はれるやうに走って行くのでした。みんな一郎のやうに足が傷《きずつ》いてゐたのです。そして本たうに恐ろしいことはその子供らの間を顔のまっ赤な大きな人のかたちのものが灰いろの棘《とげ》のぎざぎざ生えた鎧《よろひ》を着て、髪などはまるで火が燃えてゐるやう、たゞれたやうな赤い眼をして太い鞭《むち》を振りながら歩いて行くのでした。その足が地面にあたるときは地面はがりがり鳴りました。一郎はもう恐ろしさに声も出ませんでした。
 楢夫ぐらゐの髪のちゞれた子が列の中に居ましたがあんまり足が痛むと見えてたうとうよろよろつまづきました。そして倒れさうになって思はず泣いて
「痛いよう。おっかさん。」と叫んだやうでした。するとすぐ前を歩いて行ったあの恐ろしいものは立ちどまってこっちを振り向きました。その子はよろよろして恐ろしさに手をあげながらうしろへ遁《に》げようとしましたら忽《たちま》ちその恐ろしいものの口がぴくっとうごきばっと鞭が鳴ってその子は声もなく倒れてもだえました。あとから来た子供らはそれを見てもたゞふらふらと避
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