やうにはしましたけれどもその眼には黒い色も見えなかったのです。一郎はもうあらんかぎりの力を出してそこら中いちめんちらちらちらちら白い火になって燃えるやうに思ひながら楢夫を肩にしてさっきめざした方へ走りました。足がうごいてゐるかどうかもわからずからだは何か重い巌《いは》に砕かれて青びかりの粉になってちらけるやう何べんも何べんも倒れては又楢夫を抱き起して泣きながらしっかりとかゝへ夢のやうに又走り出したのでした。それでもいつか一郎ははじめにめざしたうすあかるい処《ところ》に来ては居ました。けれどもそこは決していゝ処ではありませんでした。却《かへ》って一郎はからだ中凍ったやうに立ちすくんでしまひました。すぐ眼の前は谷のやうになった窪地《くぼち》でしたがその中を左から右の方へ何ともいへずいたましいなりをした子供らがぞろぞろ追はれて行くのでした。わづかばかりの灰いろのきれをからだにつけた子もあれば小さなマントばかりはだかに着た子もありました。瘠《や》せて青ざめて眼ばかり大きな子、髪の赭《あか》い小さな子、骨の立った小さな膝《ひざ》を曲げるやうにして走って行く子、みんなからだを前にまげておどおど何か
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