たが俄《にわ》かに何を考えたのかにやりと笑ってそれを路のまん中に立て直しました。
 そして又ひとりでぷんぷんぷんぷん言いながら二つの低い丘を越えて自分の家に帰り、おみやげを待っていた子供を叱《しか》りつけてだまって床にもぐり込んでしまいました。
 ちょうどその頃平右衛門の家ではもう酒盛りが済みましたので、お客様はみんなでご馳走《ちそう》の残りを藁《わら》のつとに入れて、ぶらりぶらりと提げながら、三人ずつぶっつかったり、四人ずつぶっつかり合ったりして、門の処《ところ》まで出て参りました。
 縁側に出てそれを見送った平右衛門は、みんなにわかれの挨拶《あいさつ》をしました。
「それではお気をつけて。おみやげをとっこべとらこに取られなぃようにアッハッハッハ」
 お客さまの中の一人がだらりと振り向いて返事しました。
「ハッハッハ。とっこべとらこだらおれの方で取って食ってやるべ」
 その語《ことば》がまだ終らないうちに、神出鬼没のとっこべとらこが、門の向うの道のまん中にまっ白な毛をさか立てて、こっちをにらんで立ちました。
「わあ、出た出た。逃げろ。逃げろ」
 もう大へんなさわぎです。みんな泥足でヘ
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