とっこべとら子
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)おとら狐《ぎつね》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)千両|函《ばこ》
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 おとら狐《ぎつね》のはなしは、どなたもよくご存じでしょう。おとら狐にも、いろいろあったのでしょうか、私の知っているのは、「とっこべ、とら子」というのです。
「とっこべ」というのは名字でしょうか。「とら」というのは名前ですかね。そうすると、名字がさまざまで、名前がみんな「とら」という狐が、あちこちに住んでいたのでしょうか。
 さて、むかし、とっこべとら子は大きな川の岸に住んでいて、夜、網打ちに行った人から魚を盗《と》ったり、買物をして町から遅く帰る人から油揚げを取りかえしたり、実に始末におえないものだったそうです。
 慾《よく》ふかのじいさんが、ある晩ひどく酔っぱらって、町から帰って来る途中、その川岸を通りますと、ピカピカした金らんの上下《かみしも》の立派なさむらいに会いました。じいさんは、ていねいにおじぎをして行き過ぎようとしましたら、さむらいがピタリととまって、ちょっとそらを見上げて、それからあご
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