ハハアッハハ、まあのめ、さあ一杯、なんて大さわぎでした。ところがその中に一人一向笑わない男がありました。それは小吉《こきち》という青い小さな意地悪の百姓でした。
小吉はさっきから怒ってばかりいたのです。(第一おら、下座《しもざ》だちゅうはずぁあんまい、ふん、お椀《わん》のふぢぁ欠げでる、油煙はばやばや、さがなの眼玉は白くてぎろぎろ、誰《だ》っても盃《さかずき》よごさないえい糞《くそ》面白ぐもなぃ)とうとう小吉がぷっと座を立ちました。
平右衛門が、
「待て、待て、小吉。もう一杯やれ、待てったら」と言っていましたが小吉はぷいっと下駄《げた》をはいて表に出てしまいました。
空がよく晴れて十三日の月がその天辺《てっぺん》にかかりました。小吉が門を出ようとしてふと足もとを見ますと門の横の田の畔《くろ》に疫病除《やくびょうよ》けの「源の大将」が立っていました。
それは竹へ半紙を一枚はりつけて大きな顔を書いたものです。
その「源の大将」が青い月のあかりの中でこと更顔を横にまげ眼を瞋《いか》らせて小吉をにらんだように見えました。小吉も怒ってすぐそれを引っこ抜いて田の中に投げてしまおうとしまし
前へ
次へ
全10ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング