》てをして、力一杯延びあがりながら、号令をかけます。
「胴上げい、はじめっ。」
「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」
 もう、楢夫のからだは、林よりも高い位です。
「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」
 風が耳の処でひゅうと鳴り、下では小猿共が手をうようよしているのが実に小さく見えます。
「よっしょい。よっしょい。よっしょい。」
 ずうっと向うで、河がきらりと光りました。
「落せっ。」「わあ。」と下で声がしますので見ると小猿共がもうちりぢりに四方に別れて林のへりにならんで草原をかこみ、楢夫の地べたに落ちて来るのを見ようとしているのです。
 楢夫はもう覚悟《かくご》をきめて、向うの川を、もう一ぺん見ました。その辺に楢夫の家があるのです。そして楢夫は、もう下に落ちかかりました。
 その時、下で、「危いっ。何をする」という大きな声がしました。見ると、茶色のばさばさの髪《かみ》の巨《おお》きな赤い顔が、こっちを見あげて、手を延ばしているのです。
「ああ山男だ。助かった。」と楢夫は思いました。そして、楢夫は、忽《たちま》ち山男の手で受け留められて、草原におろされました。その草原は楢夫のう
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