まれた小さな明地《あきち》で、小猿は緑の草の上を、列《なら》んでだんだんゆるやかに、三べんばかり廻《まわ》ってから、楢夫のそばへやって来ました。大将が鼻をちぢめて云いました。
「ああひどかった。あなたもお疲《つか》れでしょう。もう大丈夫《だいじょうぶ》です。これからはこんな切ないことはありません。」
楢夫が息をはずませながら、ようやく起き上って云いました。
「ここはどこだい。そして、今頃《いまごろ》お日さまがあんな空のまん中にお出《い》でになるなんて、おかしいじゃないか。」
大将が申しました。
「いや、ご心配ありません。ここは種山《たねやま》ヶ|原《はら》です。」
楢夫がびっくりしました。
「種山ヶ原? とんでもない処《ところ》へ来たな。すぐうちへ帰れるかい。」
「帰れますとも。今度は下りですから訳ありません。」
「そうか。」と云いながら楢夫はそこらを見ましたが、もう今やって来たトンネルの出口はなく、却《かえ》って、向うの木のかげや、草のしげみのうしろで、沢山の小猿が、きょろきょろこっちをのぞいているのです。
大将が、小さな剣をキラリと抜《ぬ》いて、号令をかけました。
「集れっ
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