ございますか。私共に追いついておいでなさい。」
楢夫が申しました。
「此処《ここ》へしるしを付けて行こう。うちへ帰る時、まごつくといけないから。」
猿が、一度に、きゃっきゃっ笑いました。生意気にも、ただの兵隊の小猿まで、笑うのです。大将が、やっと笑うのをやめて申しました。
「いや、お帰りになりたい時は、いつでもお送りいたします。決してご心配はありません。それより、まあ、駈《か》ける用意をなさい。ここは最大急行で通らないといけません。」
楢夫も仕方なく、駈け足のしたくをしました。
「さあ、行きますぞ。一二の三。」小猿はもう駈け出しました。
楢夫も一生けん命、段をかけ上りました。実に小猿は速いのです。足音がぐゎんぐゎん響《ひび》き電燈が矢の様に次から次と下の方へ行きました。もう楢夫は、息が切れて、苦しくて苦しくてたまりません。それでも、一生けん命、駈けあがりました。もう、走っているかどうかもわからない位です。突然《とつぜん》眼の前がパッと青白くなりました。そして、楢夫は、眩《まぶ》しいひるまの草原の中に飛び出しました。そして草に足をからまれてばったり倒《たお》れました。そこは林に囲
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