ばらくみんなしぃんとして待った。けれどもやっぱり、魚は一ぴきも浮いて来なかった。
「さっぱり魚、浮ばなぃよ。」三郎が叫んだ。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]はびくっとしたけれども、まだ一しんに水を見てゐた。
「魚さっぱり浮ばなぃよ。」ぺ吉が、また向ふの木の下で云った。するともう子どもらは、がやがや云ひ出して、みんな水に飛び込んでしまった。
しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、しばらくきまり悪さうに、しゃがんで水を見てゐたけれど、たうとう立って、
「鬼っこしないか。」と云った。
「する、する。」みんなは叫んで、じゃんけんをするために、水の中から手を出した。泳いでゐたものは、急いでせいの立つところまで行って手を出した。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]が、ぼくにもはひらないかと云ったから、もちろんぼくは、はじめから怒ってゐたのでもないし、すぐ手を出した。しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、はじめに、昨日あの変な鼻の尖《とが》った人の上《のぼ》って行った崖《がけ》の下の、青いぬるぬるした粘土のところを根っこ[#「根っこ」に傍点]にきめた。そこに取りついてゐれば、鬼は押へることができない。それ
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