った。
八月十四日
しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、今日は、毒もみ[#「毒もみ」に傍点]の丹礬《たんぱん》をもって来た。あのトラホームの眼《め》のふちを擦《こす》る青い石だ。あれを五かけ、紙に包んで持って来て、ぼくをさそった。巡査に押へられるよと云ったら、田から流れて来たと云へばいいと云った。けれども毒もみは卑怯《ひけふ》だから、ぼくは厭《いや》だと答へたら、しゅっこは少し顔いろを変へて、卑怯でないよ、みみずなんかで、だまして取るよりいゝと云って、あとはあんまり、ぼくとは口を利かなかった。その代りしゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]は、そこら中を、一軒ごとにさそって歩いて、いいことをして見せるからあつまれと云って、まるで小さなこどもらまで、たくさん集めた。
ぼくらは、蝉《せみ》が雨のやうに鳴いてゐるいつもの松林を通って、それから、祭のときの瓦斯《ガス》のやうな匂《にほひ》のむっとする、ねむの河原を急いで抜けて、いつものさいかち淵《ぶち》に行った。今日なら、もうほんたうに立派な雲の峰が、東でむくむく盛りあがり、みみづくの頭の形をした鳥《てう》ヶ森《もり》も、ぎらぎら青
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