なぃか。」
その人は、びっくりしてこっちを見たけれども、何を云ったのか、よくわからないといふやうすだった。そこでぼくらはまた云った。
「あんまり川を濁すなよ、
いつでも先生《せんせ》、云ふでなぃか。」
鼻の尖《とが》った人は、すぱすぱと、煙草《たばこ》を吸ふときのやうな口つきで云った。
「この水|呑《の》むのか、ここらでは。」
「あんまり川をにごすなよ、
いつでも先生《せんせ》云ふでなぃか。」
鼻の尖った人は、少し困ったやうにして、また云った。
「川をあるいてわるいのか。」
「あんまり川をにごすなよ、
いつでも先生《せんせ》云ふでなぃか。」
その人は、あわてたのをごまかすやうに、わざとゆっくり、川をわたって、それから、アルプスの探検みたいな姿勢をとりながら、青い粘土と赤砂利の崖《がけ》をななめにのぼって、せなかにしょった長いものをぴかぴかさせながら、上の豆畠《まめばたけ》へはひってしまった。ぼくらも何だか気の毒なやうな、をかしながらんとした気持ちになった。そこで、一人づつ木からはね下りて、河原に泳ぎついて、魚を手拭《てぬぐひ》につつんだり、手にもったりして、家《うち》に帰
前へ
次へ
全14ページ中6ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮沢 賢治 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング