になった。
 そのころ誰かが、
「あ、生洲、打壊《ぶっこは》すとこだぞ。」と叫んだ。見ると、一人の変に鼻の尖《とが》った、洋服を着てわらぢをはいた人が、鉄砲でもない槍《やり》でもない、をかしな光る長いものを、せなかにしょって、手にはステッキみたいな鉄槌《かなづち》をもって、ぼくらの魚を、ぐちゃぐちゃ掻《か》きまはしてゐるのだ。みんな怒って、何か云はうとしてゐるうちに、その人は、びちゃびちゃ岸をあるいて行って、それから淵のすぐ上流《かみ》の浅瀬をこっちへわたらうとした。ぼくらはみんな、さいかちの樹《き》にのぼって見てゐた。ところがその人は、すぐに河をわたるでもなく、いかにもわらぢや脚絆《きゃはん》の汚なくなったのを、そのまゝ洗ふといふふうに、もう何べんも行ったり来たりするもんだから、ぼくらはいよいよ、気持ちが悪くなってきた。そこで、たうとう、しゅっこ[#「しゅっこ」に傍点]が云った。
「お、おれ先に叫ぶから、みんなあとから、一二三で叫ぶこだ。いいか。
 あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生《せんせ》云ふでなぃか。一、二ぃ、三。」
「あんまり川を濁すなよ、
 いつでも先生《せんせ》云ふで
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