うたったのまねしたんだぞ。」
「だまれ、無礼もの、その方などの口を出すところでない。」柏の木大王がぶりぶりしてどなりました。
「なんだと、にせものだからにせものと云ったんだ。生意気いうと、あした斧《おの》をもってきて、片っぱしから伐《き》ってしまうぞ。」
「なにを、こしゃくな。その方などの分際でない。」
「ばかを云え、おれはあした、山主の藤助《とうすけ》にちゃんと二升酒を買ってくるんだ」
「そんならなぜおれには買わんか。」
「買ういわれがない。」
「買え。」
「いわれがない。」
「よせ、よせ、にせものだからにせがねのメタルをやるんだ。あんまりそう喧嘩《けんか》するなよ。さあ、そのつぎはどうだ。出るんだ出るんだ。」
 お月さまの光が青くすきとおってそこらは湖の底のようになりました。
「わたしのは清作のうたです。」
 またひとりの若い頑丈《がんじょう》そうな柏の木が出ました。
「何だと、」清作が前へ出てなぐりつけようとしましたら画かきがとめました。
「まあ、待ちたまえ。君のうただって悪口《わるぐち》ともかぎらない。よろしい。はじめ。」
 柏の木は足をぐらぐらしながらうたいました。
「清作は
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