また一本の若い柏《かしは》の木がでてきました。月光はすこし緑いろになりました。
「よろしいはじめつ。」
「きつね、こんこん、きつねのこ、
 月よにしつぽが燃えだした。」
「わあ、うまいうまい。わつはゝ、わつはゝ。」
「第二とうしやう、きんいろメタル。」
「こんどはぼくやります。ぼくのは猫のうたです。」
「よろしいはじめつ。」
「やまねこ、にやあご、ごろごろ
 さとねこ、たつこ、ごろごろ。」
「わあ、うまいうまい。わつはゝ、わつはゝ。」
「第三とうしやう、水銀メタル。おい、みんな、大きいやつも出るんだよ。どうしてそんなにぐずぐずしてるんだ。」画《ゑ》かきが少し意地わるい顔つきをしました。
「わたしのはくるみの木のうたです。」
 すこし大きな柏の木がはづかしさうに出てきました。
「よろしい、みんなしづかにするんだ。」
 柏の木はうたひました。
「くるみはみどりのきんいろ、な、
 風にふかれて  すいすいすい、
 くるみはみどりの天狗《てんぐ》のあふぎ、
 風にふかれて  ばらんばらんばらん、
 くるみはみどりのきんいろ、な、
 風にふかれて  さんさんさん。」
「いゝテノールだねえ。
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