かしはばやしの夜
宮沢賢治

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)云《い》ひながら、

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)前科|九十八犯《くじふはつぱん》ぢやぞ。
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 清作は、さあ日暮れだぞ、日暮れだぞと云《い》ひながら、稗《ひえ》の根もとにせつせと土をかけてゐました。
 そのときはもう、銅《あかがね》づくりのお日さまが、南の山裾《やますそ》の群青《ぐんじやう》いろをしたとこに落ちて、野はらはへんにさびしくなり、白樺《しらかば》の幹などもなにか粉を噴いてゐるやうでした。
 いきなり、向ふの柏《かしは》ばやしの方から、まるで調子はづれの途方もない変な声で、
「欝金《うこん》しやつぽのカンカラカンのカアン。」とどなるのがきこえました。
 清作はびつくりして顔いろを変へ、鍬《くは》をなげすてて、足音をたてないやうに、そつとそつちへ走つて行きました。
 ちやうどかしはばやしの前まで来たとき、清作はふいに、うしろからえり首をつかまれました。
 びつくりして振りむいてみますと、赤いトルコ帽をかぶり、鼠《ねずみ》いろのへんなだぶだぶの着ものを着て、靴を
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