はいた無暗《むやみ》にせいの高い眼のするどい画《ゑ》かきが、ぷんぷん怒つて立つてゐました。
「何といふざまをしてあるくんだ。まるで這《は》ふやうなあんばいだ。鼠のやうだ。どうだ、弁解のことばがあるか。」
清作はもちろん弁解のことばなどはありませんでしたし、面倒臭くなつたら喧嘩《けんくわ》してやらうとおもつて、いきなり空を向いて咽喉《のど》いつぱい、
「赤いしやつぽのカンカラカンのカアン。」とどなりました。するとそのせ高の画かきは、にはかに清作の首すぢを放して、まるで咆《ほ》えるやうな声で笑ひだしました。その音は林にこんこんひゞいたのです。
「うまい、じつにうまい。どうです、すこし林のなかをあるかうぢやありませんか。さうさう、どちらもまだ挨拶《あいさつ》を忘れてゐた。ぼくからさきにやらう。いゝか、いや今晩は、野はらには小さく切つた影法師がばら播《ま》きですね、と。ぼくのあいさつはかうだ。わかるかい。こんどは君だよ。えへん、えへん。」と云ひながら画かきはまた急に意地悪い顔つきになつて、斜めに上の方から軽べつしたやうに清作を見おろしました。
清作はすつかりどぎまぎしましたが、ちやうど夕が
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