たでおなかが空《す》いて、雲が団子のやうに見えてゐましたからあわてて、
「えつ、今晩は。よいお晩でございます。えつ。お空はこれから銀のきな粉でまぶされます。ごめんなさい。」
と言ひました。
ところが画かきはもうすつかりよろこんで、手をぱちぱち叩《たた》いて、それからはねあがつて言ひました。
「おい君、行かう。林へ行かう。おれは柏《かしは》の木大王のお客さまになつて来てゐるんだ。おもしろいものを見せてやるぞ。」
画かきはにはかにまじめになつて、赤だの白だのぐちやぐちやついた汚ない絵の具箱をかついで、さつさと林の中にはひりました。そこで清作も、鍬《くは》をもたないで手がひまなので、ぶらぶら振つてついて行きました。
林のなかは浅黄いろで、肉桂《にくけい》のやうなにほひがいつぱいでした。ところが入口から三本目の若い柏の木は、ちやうど片脚をあげてをどりのまねをはじめるところでしたが二人の来たのを見てまるでびつくりして、それからひどくはづかしがつて、あげた片脚の膝《ひざ》を、間がわるさうにべろべろ嘗《な》めながら、横目でじつと二人の通りすぎるのをみてゐました。殊に清作が通り過ぎるときは、ちよ
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