画《ゑ》かきは顔をしかめて、しよんぼり立つてこの喧嘩《けんくわ》をきいてゐましたがこのとき、俄《には》かに林の木の間から、東の方を指さして叫びました。
「おいおい、喧嘩はよせ。まん円い大将に笑はれるぞ。」
見ると東のとつぷりとした青い山脈の上に、大きなやさしい桃いろの月がのぼつたのでした。お月さまのちかくはうすい緑いろになつて、柏の若い木はみな、まるで飛びあがるやうに両手をそつちへ出して叫びました。
「おつきさん、おつきさん、おつつきさん、
ついお見外《みそ》れして すみません
あんまりおなりが ちがふので
ついお見外《みそ》れして すみません。」
柏《かしは》の木大王も白いひげをひねつて、しばらくうむうむと云ひながら、じつとお月さまを眺《なが》めてから、しづかに歌ひだしました。
「こよひあなたは ときいろの
むかしのきもの つけなさる
かしはばやしの このよひは
なつのをどりの だいさんや
やがてあなたは みづいろの
けふのきものを つけなさる
かしはばやしの よろこびは
あなたのそらに かゝるまゝ。」
画《ゑ》かきがよろこんで手を叩《たた》きました。
「
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