来ました。
大王は大小とりまぜて十九《じふく》本の手と、一本の太い脚とをもつて居《を》りました。まはりにはしつかりしたけらいの柏どもが、まじめにたくさんがんばつてゐます。
画かきは絵の具ばこをカタンとおろしました。すると大王はまがつた腰をのばして、低い声で画かきに云ひました。
「もうお帰りかの。待つてましたぢや。そちらは新らしい客人ぢやな。が、その人はよしなされ。前科者ぢやぞ。前科|九十八犯《くじふはつぱん》ぢやぞ。」
清作が怒つてどなりました。
「うそをつけ、前科者だと。おら正直だぞ。」
大王もごつごつの胸を張つて怒りました。
「なにを。証拠はちやんとあるぢや。また帳面にも載《の》つとるぢや。貴さまの悪い斧《をの》のあとのついた九十八の足さきがいまでもこの林の中にちやんと残つてゐるぢや。」
「あつはつは。をかしなはなしだ。九十八の足さきといふのは、九十八の切株だらう。それがどうしたといふんだ。おれはちやんと、山主の藤助《とうすけ》に酒を二升買つてあるんだ。」
「そんならおれにはなぜ酒を買はんか。」
「買ふいはれがない」
「いや、ある、沢山ある。買へ」
「買ふいはれがない」
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