》かにざわざわしました。もう出発に間もないのです。
「僕、靴《くつ》が小さいや。面倒くさい。はだしで行かう。」
「そんなら僕のと替へよう。僕のは少し大きいんだよ。」
「替へよう。あ、丁度いゝぜ。ありがたう。」
「わたし困ってしまふわ、おっかさんに貰った新しい外套《ぐわいたう》が見えないんですもの。」
「早くおさがしなさいよ。どの枝に置いたの。」
「忘れてしまったわ。」
「困ったわね。これから非常に寒いんでせう。どうしても見附けないといけなくってよ。」
「そら、ね。いゝぱんだらう。ほし葡萄《ふだう》が一寸《ちょっと》顔を出してるだらう。早くかばんへ入れ給《たま》へ。もうお日さまがお出ましになるよ。」
「ありがたう。ぢゃ貰《もら》ふよ。ありがたう。一緒に行かうね。」
「困ったわ、わたし、どうしてもないわ。ほんたうにわたしどうしませう。」
「わたしと二人で行きませうよ。わたしのを時々貸してあげるわ。凍えたら一緒に死にませうよ。」
 東の空が白く燃え、ユラリユラリと揺れはじめました。おっかさんの木はまるで死んだやうになってじっと立ってゐます。
 突然光の束が黄金《きん》の矢のやうに一度に飛んで
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