。けれどもあぶないぢゃないか。ばけ物は大きいんだよ。僕たちなんか鼻でふっと吹き飛ばされちまふよ。」
「僕ね、いゝもの持ってるんだよ。だから大丈夫さ。見せようか。そら、ね。」
「これお母《っか》さんの髪でこさへた網ぢゃないの。」
「さうだよ。お母《っか》さんが下すったんだよ。何か恐ろしいことのあったときは此《こ》の中にかくれるんだって。僕ね、この網をふところに入れてばけ物に行ってね。もしもし。今日は、僕を呑《の》めますか呑めないでせう。とかう云ふんだよ。ばけ物は怒ってすぐ呑むだらう。僕はその時ばけ物の胃袋の中でこの網を出してね、すっかり被《かぶ》っちまふんだ。それからおなか中をめっちゃめちゃにこはしちまふんだよ。そら、ばけ物はチブスになって死ぬだらう。そこで僕は出て来て杏のお姫様を連れてお城に帰るんだ。そしてお姫様を貰《もら》ふんだよ。」
「本当にいゝね、そんならその時僕はお客様になって行ってもいゝだらう。」
「いゝともさ。僕、国を半分わけてあげるよ。それからお母《っか》さんへは毎日お菓子やなんか沢山あげるんだ。」
 星がすっかり消えました。東のそらは白く燃えてゐるやうです。木が俄《には
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