して下さいね。」
「あら、あたしこそ。あたしこそだわ。許して頂戴《ちゃうだい》。」
 東の空の桔梗の花びらはもういつかしぼんだやうに力なくなり、朝の白光りがあらはれはじめました。星が一つづつ消えて行《ゆ》きます。
 木の一番一番高い処《ところ》に居た二人のいてふの男の子が云ひました。
「そら、もう明るくなったぞ。嬉《うれ》しいなあ。僕はきっと黄金《きん》色のお星さまになるんだよ。」
「僕もなるよ。きっとこゝから落ちればすぐ北風が空へ連れてって呉れるだらうね。」
「僕は北風ぢゃないと思ふんだよ。北風は親切ぢゃないんだよ。僕はきっと烏《からす》さんだらうと思ふね。」
「さうだ。きっと烏さんだ。烏さんは偉いんだよ。こゝから遠くてまるで見えなくなるまで一息に飛んで行《ゆ》くんだからね。頼んだら僕ら二人位きっと一遍に青ぞら迄《まで》連れて行って呉れるぜ。」
「頼んで見ようか。早く来るといゝな。」
 その少し下でもう二人が云ひました。
「僕は一番はじめに杏《あんず》の王様のお城をたづねるよ。そしてお姫様をさらって行ったばけ物を退治するんだ。そんなばけ物がきっとどこかにあるね。」
「うん。あるだらう
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