刈れ
   そんな髪をしてゐるから
   そんなことも考へるのだ)
[#地付き](一九二二、九、七)
[#改ページ]

  銅線


おい 銅線をつかつたな
とんぼのからだの銅線をつかひ出したな
   はんのき はんのき
   交錯|光乱転《くわうらんてん》
気圏日本では
たうとう電線に銅をつかひ出した
  (光るものは碍子
   過ぎて行くものは赤い萱の穂)
[#地付き](一九二二、九、一七)
[#改ページ]

  滝沢野


光波測定《くわうはそくてい》の誤差《ごさ》から
から松のしんは徒長《とちやう》し
柏の木の烏瓜《からすうり》ランタン
  (ひるの鳥は曠野に啼き
   あざみは青い棘に遷《うつ》る)
太陽が梢に発射するとき
暗い林の入口にひとりたたずむものは
四角な若い樺の木で
Green Dwarf といふ品種
日光のために燃え尽きさうになりながら
燃えきらず青くけむるその木
羽虫は一疋づつ光り
鞍掛や銀の錯乱
   (寛政十一年は百二十年前です)
そらの魚の涎《よだ》れはふりかかり
天末線《スカイライン》の恐ろしさ
[#地付き](一九二二、九、一七)
[#改丁、ページの左右中央に]

       東岩手火山

[#改ページ]

  東岩手火山


 月は水銀 後夜《ごや》の喪主《もしゆ》
 火山|礫《れき》は夜《よる》の沈澱《ちんでん》
 火口の巨《おほ》きなゑぐりを見ては
 たれもみんな愕くはずだ
  (風としづけさ)
 いま漂着《へうちやく》する薬師|外輪山《ぐわいりんざん》
 頂上の石標もある
  (月光は水銀 月光は水銀)
※[#始め二重パーレン、1−2−54]こんなことはじつにまれです
向ふの黒い山……つて それですか
それはここのつづきです
ここのつづきの外輪山です
あすこのてつぺんが絶頂です
向ふの?
向ふのは御室火口です
これから外輪山をめぐるのですけれども
いまはまだなんにも見えませんから
もすこし明るくなつてからにしませう
えゝ 太陽が出なくても
あかるくなつて
西岩手火山のはうの火口湖やなにか
見えるやうにさへなればいいんです
お日さまはあすこらへんで拝みます※[#終わり二重パーレン、1−2−55]
 黒い絶頂の右肩と
 そのときのまつ赤な太陽
 わたくしは見てゐる
 あんまり真赤な幻想の太陽だ
※[#始め二重パーレン、1−2−
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